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小さいけど 頼りになる
完全一対一の桑原塾

(私たちの主張06)

生身のお師匠さんに『稽古』をつけてもらう

 私たちは、一対一で、ある時には眼を大きく見開いて、またある時には薄目を開けて、生徒の前や斜めに座っています。「生身のお師匠さん」と自覚して、生徒に『稽古』をつけます。

柿内三郎氏の考える『稽古』とは

 『稽古』とはどういうことか、うまく表現されている文章を見つけました。著者は、生化学者であり教育者でもあった柿内三郎氏(1882−1967)です。(註)

 氏は能楽に熱中していた御尊父の命日に追善能を催し、能の曲を自分で舞って手向けたいと考えます。数ヶ月稽古して、13回忌(氏はその時50歳)に無事1曲舞った氏は,20年後の33回忌にも追善能を手向けたい、とお師匠さん(喜多六平太氏)に相談いたします。
 私たちの生活とは少しかけ離れたシチュエーションですが、少し引用いたしましょう。


<師匠の前ならばすぐ誤りを正してもらえる>(柿内三郎氏の文章の引用)

 その時33回忌の時になお一度父に追善能を手向けたいと師匠に相談したがその答は極めて悲観的であった。その時私は数え年の50歳であったが、50歳だから初めて暫時稽古しただけでも出来たのであるが、33回忌のときは70歳になるから短日月の稽古などで到底出来るものでない、すでに故人となった熟達の能役者でも70歳を越した時には無理のところが出て来てただ、今までの余勢で舞ったに過ぎなかった、しかし絶えず今から稽古を継続していれば70歳でも舞えないことはないとの答であった。
 そこで私は33回忌の追善能が出来るように平素稽古をしておこうと決定した。これがためにまず20年計画を立て、これにしたがってゆっくりと、しかし怠らずに、稽古は常にこれが最後の稽古であるという考えで真面目に励んだ。一週に必ず2回、夜8時から約1時間、師匠の前で謡い、師匠の前で舞うだけで、独りでは謡うことも舞うこともしないときめた。これは師匠の前ならばすぐ誤りを正してもらえるが、独りのときは誤った悪習を重ねる危険があるからである。



 柿内氏は、稽古はお師匠さんの前でだけ行おうと決めるのです。
 柿内氏の考える『稽古』とは、「お弟子さんの良くない癖を正して、より優れた技量を身に付けさせようとする、お師匠さんとお弟子さんとの一対一の奥義伝授の機会」とでも言ったらよろしいでしょうか。


私たちの『稽古』とは

 勉強を『稽古』と考える私たちは、次の二つを重視いたします。

1.優れたお手本(考え方・答え方)を示す
2.それを身に付けるためのトレーニングを施す

お手本を示す

 私たちは、一斉テストの時間でもない限り、ほとんどの時間のあいだ、生徒さんの前か斜め横に座っています。「生徒に問題を与えてその結果を採点する」のではないのです。生徒が問題を解くその時にこそ、私たちは立ち会わなくてはならないのです。

 生徒を観察していれば、生徒にとって不確かなところ・躊躇したところ・何も考えずに書いたところがはっきりわかります。何回か接していれば、その生徒の考えたプロセスも、手に取るようにわかってきます。

 私たちは、生徒が意味のないプロセスあるいは適切でないプロセスに落ち込んでいる時には、それをはっきりと指摘し、「考える」とはどのようなプロセスを通ることなのか、「答える」とは結果をいかに簡潔に表現することなのか、お手本を示すことができます。

 しかし、それは単なる見本ではなく、その生徒に合ったお手本です。生徒の頭の中を考えれば、「誰にとっても適切な」考え方・「誰にとっても適切な」答え方というものは存在しないからです。

教科書などに書いてある答は、「間違いと指摘することはできない」という意味において「誰にとっても適切な」答え方であったりするのです。逆に、最も優秀な生徒の解き方は、教科書には決して書かれることはなく、力の無い教師によっては、「教科書と違う」という理由でバツをつけられる可能性すらあるのです。

トレーニングを施す

 そして、より適切な考え方・解き方・表現の仕方を身に付けるためには、少し繰り返して練習することが必要です。

 大事なことは、「お師匠さんの立ち会い」です。問題を解くのを観察して、解き方が身に付いたかを確認しなければなりません。紙に書かれた結果だけ見るという手抜きでは、『お稽古』にならないのです。


(註)引用文は『コスモス』昭和28年10月号所収、<『芭蕉』柿内木然>による。
 柿内三郎(木然)は、私の父、桑原岩雄にとっての恩人の一人でした。(⇒父については、<父、桑原岩雄> をご覧ください。


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(2008年2月12日分割改訂、2018年10月2日更新)