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018("永井節子"様 30年前に駿台で一年浪人生活をしていた際、桑原先生の授業をとっておりました)

"永井節子"様 2014年7月7日
30年前に駿台で一年浪人生活をしていた際、桑原先生の授業をとっておりました



From: "Setsuko Nagai"
Date: Monday, July 7, 2014 8:35 PM
Subject: 30年前に駿台で一年浪人生活をしていた際、桑原先生の授業をとっておりました
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前略


たまたま、テレビでの某予備校に、30年前の駿台の先生と親戚関係と思われる先生を 発見し、それをきっかけに、久しぶりに駿台での日々を思い出しました。私にとって は、ただの予備校ではなく、学問の面白さを教えてくれた学び舎でした。


何より、桑原岩雄先生を思い出し、ネットで調べさせて頂いたところ、本サイトの 「古文科・桑原岩雄先生(故人)にきく」を見つけました。先生のお声が再び聞こえ てくるような、ただただ懐かしく、そして熱い思いが致しました。


最後の授業が終わった時に、教壇のところへ行って、桑原先生にテキストに書いて頂 いた言葉は今でも忘れておりません。

「順境春の如く、逆境冬の如し。春元より愛すべく、冬亦愛すべからざるや」という 漢文でした。先生は「(読み下し文はなくても、)これで読めましょうね?」と私に聞き ながら、手渡してくださいました。「逆境亦愛すべし」という言葉は、先生が授業 中、折に触れて口にされていて、大変印象的な言葉だったのですが、サインをして頂 いた時に改めて、「そうか、逆境は、冬の季節のようなものなのだから、だから亦愛 すべし、なんだな」と思ったことを、はっきりと覚えています。


その後、御蔭様で東大の文Vに合格し、その後、教養学部教養学科を経て、40歳を過 ぎるまで、金融業界のめまぐるしさの中に身を置き、忙殺されておりました。結婚を 機に思い切って仕事を辞め、まず始めたのが、古典文学を読むことでした。先生の温 かいお人柄と味わい深い授業が残してくださったのは、決して受験の上だけのことで はありません。学問の本質・奥深さと、その豊かな実りを先生ご自身を以て示して下 さっていたのだと感じます。今では、しみじみ日本の古典はいいなぁと思いながら、 日本文化を游泳する毎日です。

先生が下さった「順境春の如く、逆境冬の如し。春元より愛すべく、冬亦愛すべから ざるや」という言葉を、合格発表を前にしていた当時の私は、幼いながらも、これか ら大海に船出するような厳粛さを以て、受け止めたものです。

そして、今50歳になり、より深い感慨を以てこの言葉を味わっております。

考えてみますと、今の私は、あの時の先生の年齢にだいぶ近くなっているのかもしれ ません。


今回、「古文科・桑原岩雄先生(故人)にきく」を拝読し、あの時学生だった私達が 感じた、先生の温かさと、そして力強くも静かな説得力は、先生のお人柄はさること ながら、学問に対する真摯な姿勢の賜物だったのだと、改めて感じる次第です。

先生は、何かの足跡や外からの評価を自ら求めようとされることなく、それでいて、 私のような一学生の心にさえ、しっかりと人生の道標を残してくださいました。
今、 私も、これからの人生のライフワークを考える年齢になりました。無論、先生の足元 にも及ばない身です。しかし、外からの眼ではなく、自分自身と大切に向かいあって 行けば、きっと、この世の生きた証を、ほんの細やかでも残していけるのではないか と、何か、背中を押して頂いたような気持ちになりました。


勝手ばかりとなりましたが、あの懐かしさと、先生への心からの感謝の気持ちを、一 言ここにお伝え申し上げたく、一筆認めさせて頂きました。

メールにての乱文どうぞご海容くださいませ。


永井節子

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(2014年7月8日掲載、2015年9月22日更新)